こんにちは
今日は「棚卸額と原価」について深掘ってみたいと思います。
前回(【初心者向け】飲食店経営で気にするたった5つのこと)棚卸しをする理由は「在庫管理をするため、実原価を計算するため、無駄をなくすため」というような内容を話しました。これの本質は「利益を確定させて、改善につなげる」ということです。
棚卸しをするということは、決して「在庫管理すればよし、実原価を計算すればよし」など、ひとつの行動を起こしたら終わりという話ではありません。
棚卸額と原価を意識するということは、「健全な店舗環境を作るために必要なこと」ということになります。
そのためにいろいろなデータを併用して利益を確定させることで、店舗の改善につなげるのです。
その辺のところを考えていますので、読んでみてください。
その棚卸のデータは正確ですか?

飲食店など、商品を在庫として現物を持つ職業の方は棚卸しなんて慣れたものでしょう。
「棚卸しなんてもうやってるよ。なんでいまさらそんな話なのよ」ということを感じる方もいると思います。
まずはそんな方に聞きたいことがあります。
「その棚卸のデータは本当に正確ですか?」
これは「1g単位でしっかりと数えているか」という話ではありません。
棚卸しは「人が数える」という性格上、どうしてもズレがあると考えています。
そこで「1g単位で数える」というのは、真面目でとても良いことなのですが、そこまでする必要は実はないと思っています。(あくまで飲食業の話です。)
僕が聞きたいのは
「正直にカウントしてありのままのデータなのか」
「分析されるために集められたデータなのか」
ということです。
社会人としての経験が薄かったり、棚卸しをすることの知識や財務管理、法律関係の知識が薄い人が棚卸しをすることはよくあります。
僕が学生時代にアルバイトをしていた店舗でも、アルバイトが手分けして棚卸しをしていました。
もちろんそれ自体はとてもよいことですし、業務工数を考えると仕方のないことです。
残念ながら、そういった環境で行われた棚卸しは次のようなことがよく起こります。
- 数字をごまかすことで、原価の体裁を整える
- カウントして終わりで、データとして使われない
悲しいことにこれは本当によくあります。
例えばこんなことが頻繁にあり、常態化された場合はとてもマズいことになります。
特に「数字をごまかすことで、原価の体裁を整える」ということは下手したら法律に触れてしまうのです。
なんでごまかそうとするのかというと「原価が上がってしまったことで怒られたくない」ということが大半でしょう。
しかしそれは「在庫数をごまかすことで、利益が出ていると偽るという不正行為」となります。
これは「粉飾決済」という行為をしているということです。
粉飾決済をした結果、不当に利益を得るなどを行うと取引先から損害賠償請求をされる可能性があります。
「アルバイトがやったことでそんなことにならないだろう」と考える人もいるかもしれません。
しかし、問題なのは「アルバイトだろうと、簡単に不正行為を行うことのできる社内風土」にあります。
上記のように考える人は一度考えてほしいのですが、
「あなたは大金を持っています。そんなあなたのところに”事業をするのでお金を貸してほしい”という人が現れました。お金を貸すにあたって、その人のことを調べたら、日常的に嘘をついて自分の株をあげるような人で、その人の周りにも同じような人が多いということがわかりました。あなたはそれでもお金を貸すことができますか?」
ここで「あなた=銀行などの金融機関、その人=融資をお願いする経営者」として考えてください。
銀行は新規事業に対しての融資を行う際に「返済能力があるのか、経理等財政状況は健全か」という視点で判断をしていきます。
その際に、「簡単に数字をごまかすことのできる風土のある会社」だったらどうですか?
実際はチェーン店などの何十店舗も運営している企業だと、一つの店舗の財政状況が企業全体に及ぼす影響なんてたかが知れているかもしれません。
ですが、「不正を簡単に行うことのできる会社風土」にもしなっていた場合、その影響は計り知れません。
もしも金融機関のチェックをすり抜けたとしても、プロが本気を出して調べたらすぐにばれるでしょう。
もしもバレたのがお金を借りたあとだったとした…考えるのが恐ろしいですね。
なぜごまかしてしまうのか?

これは「カウントして終わりで、データとして使われない」ということの理由にもつながります。
それは「棚卸しをすることの理由、意味まで教育することができていない」からです。
不正をしてしまうのは多くの場合以下のような状況が考えられます。
- 先輩や上司が不正をしているところを見た、知った
- 過度のプレッシャーがあり、追い詰められている
1の場合はそのまま「不正をおこなってもよいという社内風土になっている」ということですね。
2の場合は「成績を上げること、企業に対して成果を上げ貢献すること、個人の成績を上げること」に対して必要以上のプレッシャーを与えてしまっている可能性があります。
適度なプレッシャーはモチベーションを上げるためにも、とても有効な手段のひとつです。
ですが、行き過ぎたプレッシャーは「不正を行う」きっかけになることがあるのです。
棚卸しの意味・理由を教育する多くの場合は「棚卸の教育をせずに、成果を上げることだけを求める」ことをしてしまった場合、無駄なプレッシャーを生んでしまうことが多いです。
前述していますが、棚卸しは「利益を確定させて、改善につなげる」ために行われるはずなのです。
まずはそこを教育すべきです。
なぜその数字になるのか、なぜ行う必要があるのか、どうやって活用するのかというところです。
データは活用しなければ意味はありません。
分析の仕方や意味を教えることで、不正が当たり前に行われてしまう環境が生まれるのを回避してください。
棚卸データはどうすれば活用できるのか

棚卸データは3つのデータと並行して使用していきます。
- 設定原価
- 売上高
- ABC分析表
の3つです。
設定原価はFDL(food=食材仕入れ、drink=飲料仕入れ、labor=人件費)でそれぞれ設定するか、FL(food&drink=商材仕入れ、labor=人件費)のどちらかでかまいません。
僕はどちらも考えることを推奨します。
一般的にこのFL比率が売り上げに対して55~60%に収まるのが適正と言われています。
まずは目指すべき数値を設定してください。
次に売上高です。
これはそのまま現在の売上高を使用している会計システムなどから拾ってきてください。
最後がABC分析表です。
これは商品をA,B,Cというランクに分けた表です。売上金額や出品数で分類されています。
出品数が一番使いやすいと思うのでその数値を見てください。
これらを棚卸をした原価データと共に使ってください。
棚卸から原価を求めるには原価率=(期首棚卸高+当月仕入れ高ー期末棚卸高)÷当月売上高×100という数式で求めることができます。
ここで得た原価率を先に挙げた3つのデータで分析を行ってください。
順番として
- 設定原価と比較
- 売上高から在庫金額を考察する
- ABC分析表を使って要因を割り出す
となります。
設定原価と比較
これは単純に「高いか低いか」というだけではありません。
「なんの原価がどのくらい変化したか」を考えてください。
先にFL、FDLどちらも考えることを推奨する、としたのはここに関わるからです。
結果としてFLを60%以内にすることを目標とするとします。
業態によっても違うのですが、Fを30~40%以内、Lを20~30%以内に抑えることが一般的だと思います。
FLで考えた際に、Fを30~40%以内に収めるためには、FD両方を知る必要があります。
簡単に言ってしまうと、食品の使用原価が上がったとしても、飲料でF値を抑える。
もしくは飲料の原価が上がっても、食品で抑える、そうやってバランスを取ることができれば、F値を設定原価内に収めることが可能になります。
そのためにFLだけでなく、D値を把握しなければいけないのです。
- FLの2項目で原価を収める
- F値を抑えるために、FとD両方を把握し、バランスを取る
ということですね。
売上高から在庫金額を考察する
売上高から在庫金額をなんの原価が上がって、なんの原価を抑えることができたかを把握することができました。
次に売上高と棚卸金額を考えましょう。
単純な計算ですが、FDを35%に収めるということは、100万円売るときに35万円分の飲料・食材が必要ということになります。
実際にはなにがどれだけ売れるかわからないので、品切れを作らないようにする必要があります。
そのため35万円分の食材では足らないのでもっと大きな金額になるでしょう。
ですが、100万売る際に80万、90万といった在庫がある場合は明らかに過剰発注をしています。
飲食業の場合には単純にものが腐ってしまうので過剰発注は厳禁です。
また過剰に在庫がある状態だと、適正な在庫管理が行えないため、品切れを起こさないために発注したにも関わらず、「これだけものがあるからあるだろう」と勘違いして品切れを起こす可能性すらあります。
自店舗の在庫しているものが適正な範囲内なのかどうかを調べることは、健全な店舗環境を作る、運営を正常に行うためには必要なことです。
ABC分析表を使って要因を割り出す
ABC分析表は前述したように「ある数値をA,B,C,というランクで分析した表」のことです。
これによって「どんな商品がよく出て、どんな商品が出ていないのか」を知ることができます。メニュー構成上ばらつきはありますが、各商品の原価は25~35%で作成されます。
メニュー構成は業態にもよるのですが、大きく分けて
- メイン商品
- スピード商品
- つなぎの商品
分類されます。
その中でも素材の違いから原価の差がでるため、そのバランスを取るのです。
当たり前のことですが、「肉、魚、野菜、酒」を使用した商品は原価が高いでしょう。主に”メイン商品”で使われるものですね。
値段設定の狙いもあるので一概には言えませんが、そういった「高原価商品」と「それ以外の商品」のバランスをとるということが必要になります。
そのためにABC分析表を使ってください。
いかがだったでしょうか
棚卸管理は「利益を確定させて、改善につなげる」ということで、「健全な店舗環境を作るために必要なこと」であるということをりかいしていただけたでしょうか
ひとつの数字を分析するためには様々な数字を平行して考える必要があります。最初は大変だと思いますが、いつかは必ず慣れることができます。
意味、理由を理解して健全な環境を作るようにしてみてください。